中小企業のためのM&A入門~取引の種類~| 知る・学ぶ | 大同生命
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中小企業のためのM&A入門~取引の種類~

財務力を鍛えたい

M&A

税務・財務・会計

1.知られていないM&A取引の実体

M&Aといえば、一昔前は日本ではあまり一般的ではなかったのですが、2000年以降経営における有力な選択肢としてすっかり定着した感があります。大企業だけでなく、中小企業においても、M&Aが増えており、特に最近は海外市場に活路を求めるためや、事業承継のためのM&Aが増えているように思います。

増えているとはいえ、実際にM&Aを行ったことのない中小企業の経営者のほうがはるかに多いものです。そのため、いざM&Aをやろうと思っても、何を検討し、どのような人たちにアドバイスを求めるべきなのかわからないのが実情ではないでしょうか。

そこで、まずM&A取引の基本的な種類を紹介し、次回で実際に取引を検討する際に注意すべき事項をまとめます。

2.M&A取引の種類

M&A取引は、その取引の意図する効果と取引が準拠する法的形態によって、種類分けができます。以降では、こうした種類分けのうち、代表的なものを紹介します。

効果に着目した主なM&A取引の種類

水平的M&A

水平的M&Aとは、同業で競い合う企業同士の合併や買収をいいます。特に成熟産業においては、シェア拡大により価格決定力や規模の利益による経営効率を維持しようという目的で行われます。なお、M&Aを行った結果、当該企業の市場シェアが極端に高まる場合には、公正取引委員会への届出と同委員会の承認が必要になる可能性があります。

事業承継絡みのM&Aの場合には、企業の経営者が引退を考えている際に、同業の企業に事業や従業員の引き取りを依頼するケースなどが考えられます。

垂直的M&A

垂直的M&Aとは、生産活動の異なった段階で活動する企業間のM&Aをいいます。たとえば、自動車メーカーが、従来納入先であった部品メーカーを経営統合する場合がこれにあたります。垂直的M&Aは、川上と川下の企業が一体となって活動することで、コスト削減や技術共有、より円滑な生産・管理プロセスの構築などを目的としています。

また、事業承継絡みのM&Aは、サプライチェーンの一部である企業が事業継続を断念した場合に行われます。このような場合には、サプライチェーンの上位、もしくは下位にある企業が、事業継続を断念した企業を買収して事業を肩代わりするケースなどがあります。

ただし、実際には、すべての生産プロセスを自社で内製化するよりも、むしろアウトソーシングする方が効率的なケースもあるため、M&A後の効果を慎重に検討する必要があります。

事業多角化型M&A

事業多角化型M&Aとは、ある企業が他業種の企業との間で行うM&Aをいいます。本業の成長が見込めなくなった企業が新規事業への進出を目指して、M&Aを行うといったケースが考えられます。他業種といっても、より本業に近い業種・分野の企業とのM&Aと、本業とはかけ離れた業種・分野の企業とのM&Aがありますが、一般的に後者はM&A後の被買収企業(買収された企業)の経営の舵取りが、より難しくなります。

また、事業多角化型M&Aでは、いきなり企業を買収するのではなく、緩やかなM&A形態である、資本提携などの少数持分取引が行われるケースも多く見られます。

市場多角化型M&A(多くの場合、海外M&A)

市場多角化型M&Aとは、ある企業が主に海外市場の新規開拓を目的として行うM&Aをいいます。日本市場は人口減少に伴い成長が見込めない分野が多く、経済成長が著しいアジアの市場に目を向ける企業が増えています。ただし、法制度や規制、企業文化等が大きく異なる海外でのM&Aは、取引に先立つプランニングの重要性はもちろん、事後的にどのように被買収企業を経営するのかという点について検討の必要があり、非常にハードルが高くなります。

取引形態に着目したM&A取引の主な種類

現金による買収・株式買付け

現金を対価に株式を購入または買付けする取引全般で、一般的なM&Aの手法です。この中には、発行済株式を対象にした株主との相対取引、市場買付け、株式公開買付け(TOB: take-over bid、tender offer bid)や、新株発行を伴う第三者割当増資(不特定多数を対象にした公募増資や、既存の株主を対象とする株主割当増資と異なり、特定の第三者に新株を引き受ける権利を付与して行う増資)などがあります。

合併

合併には、吸収合併と新設合併があります。

吸収合併とは、ある会社と他の会社の合併(合併後一方の会社が存続し、一方の会社が消滅する合併)であって、合併により消滅する会社の財産・権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいいます。

新設合併とは、複数の会社がする合併(合併後いずれの会社も消滅し、新たに別会社を新設する合併)であって、合併により消滅する会社の財産・権利義務の全部を合併により新設する会社に承継させるものをいいます。一般的には、新設合併よりも、吸収合併が行われるケースの方が多いようです。

株式交換

ある株式会社が、その発行済株式の全部を他の株式会社(新たに親会社となる株式会社)に取得させて100%子会社となる取引で、1999年に制度が創設されました。合併との違いは、子会社として企業が存続することです。また、いったん株主総会で株式交換が承認されると、子会社化される企業の株主は、その子会社の株式を保有し続けることはできません。

株式移転

複数の株式会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する株式会社(新設親会社)に取得させ、その新設親会社の100%子会社となる取引で、1999年に制度が創設されました。純粋持株会社(ホールディング・カンパニー)を設立し、その傘下に100%子会社である事業法人を複数配置するという形態に事業再編するために用いられる制度です。子会社化される会社の株式と、新設親会社の株式を交換するのが原則です。

事業譲渡

従来は営業譲渡と呼ばれていましたが、会社法施行によりこの名称に変更されました。一定の事業を営む目的で組織化され、有機的一体として機能する有形、無形の財産(のれん、ブランドなど)の一括譲渡をいいます。あくまでも資産の譲渡であって、株式の移動を伴わないM&A形態である点が、これまで述べたM&Aとは異なります。

M&Aを巡る諸制度は、1990年代後半以降に整備が進み、大きく変化しました。制度が複雑化して、検討すべき選択肢が増えたことで、企業にとっては経営戦略、財務、税務、法務という多くの側面から、自社に最適なM&A手段や形態がどのようなものであるかを検討することが求められるようになっています。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2018年5月20日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

[出典]頑張る経営者の応援サイト

執筆者

鈴木一功(すずき かずのり)

早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
東京大学法学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入社。INSEAD(欧州経営大学院)MBA、ロンドン大学(London Business School)Ph.D.。銀行にてM&Aの企業価値評価モデル開発等を担当。中央大学大学院国際会計研究科を経て、2012年4月より現職。みずほ銀行コーポレートアドバイザリー部企業価値評価アドバイザー。
主な著書として『企業価値評価(実践編)』(ダイヤモンド社)。専門分野は、企業財務、M&A。