注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):株式会社コシブ精密 | 注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー) | 大同生命
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注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):
株式会社コシブ精密

2019.04

ナノの世界のエキスパートとして、信州伊那谷から世界を目指す。

株式会社コシブ精密

最先端の産業用ロボットや工作機械、高速エレベーターなどの回転運動を制御するロータリーエンコーダ。正確かつ円滑な動きを実現する“目盛”がスリット板と呼ばれる部品であり、製造技術を有する企業は国内数社のみ。その内の一社が株式会社コシブ精密です。
“ナノの世界のエキスパート”を合言葉に、躍進を続ける荻原太一社長にお話を伺いました。

1.様々な産業を支え、動かす“目盛”を正確に、精密に刻む。

当社の主力製品はロータリーエンコーダスリット板という部品です。この部品を理解していただくためには、同時にロータリーエンコーダ(以下、エンコーダ)の説明をしなければいけないかと思います。エンコーダは機械などの回転運動を制御する装置です。例えば産業用ロボットや人型ロボットには、人間でいう関節にあたる箇所がいくつもありますよね。その一つ一つの動きをコントロールしているのがエンコーダであり、どれだけ動かすのかを決めるための“目盛”が私どものつくるスリット板。身近な例では、エレベーターの昇降距離や停止位置を測っているのも、このスリット板なのです。

スリット板に通された光をセンサーで読み取り、移動量が検出され、デジタル情報に変換されて各種機器は制御されます。当然この目盛が正確でなければ機械は正しい動作ができませんし、精密になればなるほど動きは滑らかになります。市場には金属製のスリット板もありますが、私どもの製品はガラス製のディスク。ガラスは温度変化などによって変形することがなく、当社のフォトリソという技術を用いることで、1ミクロン以下の微細な目盛を刻むことができます。また、目盛を刻むだけでなく、ガラス加工などの全工程を一貫体制で行なえることも当社の強みです。

現在、様々な産業分野でナノレベルの精度が追求されていますから、その製造工程を支える我々のナノレベルの技術は、今後さらに求められていくのではないかと。特に、手術用ロボットや介護用ロボット、遠隔操作技術など、医療分野での活用に期待しています。

ただ、どれほど優れたスリット板でもエンコーダの“部品”であることは間違いありません。つまり、エンコーダ自体の需要がなくなれば自然と衰退していくニッチな市場なのです。そこで、光学分野でもう一つの柱を打ち出しました。そこでの主力製品は、ライフルなどのスコープ(照準器)の生命線ともいえる目盛です。金属製の目盛より高額なのですが、近年、本場アメリカをはじめ、多くの愛好家がより精度の高い高級品を求める傾向にあり、海外市場での売上が着実に伸びています。この分野がスリット板と並ぶほどの柱になってきました。専門用語で「光学レチクル」というのですが、この技術はスコープのほかに、顕微鏡を覗いたときに見える目盛にも用いられ、それは当社の“原点”でもあります。

ロータリーエンコーダスリット板

光学レチクル

2.技術を支え、継承してくれる社員たちのために会社はある。

先代である父(現会長)が叔父(現副会長)とともにアパートの一室を借りて「荻原光学目盛研究所」を創業したのは55年前、東京オリンピックの年でした(ほどなく現常務の荻原義夫氏も加わる)。当時は全て手作業。先代が自作した特殊なガラス切りのような道具と、自作の作業台のような装置、集中力と職人技を駆使して、ガラスに一本一本の線を手で罫書いていく。線を引いては角度を変え、一本の線でも書き損じれば商品にならないどころか、ガラスを再利用することもできません。気の遠くなるような作業を繰り返して、顕微鏡用の目盛を一枚一枚製作していたのです。その後、原盤をコピーする写真技術や、ミクロン単位の精密さを可能にする加工技術などを開発して、現在に至る基盤を次々と確立していったのです。

ですから、当社の製品がニッチな市場のものとはいえ、大手メーカーなどが参入してこない理由は、積み重ねてきた技術の特殊性にあるのだと思います。諸先輩方が教科書もない、師匠もいない中で積み重ねてきた技術の結晶です。最終製品を分解して当社の製品を見ても「つくり方が分からない」であろう技術が少なからずあり、それを開発する手間やコストを考えれば「コシブ精密へ頼んだほうがいい」となるのだと思います。

現在では当社の製作工程もかなりの部分で自動化が進んでいますが、それでも、どの工程も「誰にでもできる」という単純作業ではありません。習得には時間も、技術者としての個人の資質も要します。だからこそ、先代の時代から当社は社員の働きやすさを第一に考えてきました。

先代は生まれ故郷(長野県大鹿村)にほど近い下伊那郡松川町に長野工場を建設しました。社名も大鹿を流れる小渋川に由来しています。工場で大量に使うきれいな水が豊富だということもありますが、最大の理由は“郷土愛”だったのではないかと思います。どれほど業績が上向いても地元の高校からの採用にこだわり、就労経験のない主婦の方でも積極的に採用、社員登用してきました。女性社員の比率が高いことから、育児休暇制度などは当然のこととして、それ以外にも産休明けの社員が短時間勤務で復帰できるようにしたり、15分単位で“有給休暇”を取得できる制度で勤務時間中でも役場や病院へ向かえるようにしたり、気後れすることなく家庭と仕事の両立を図れるようにしてきました。そのような制度や昔からの社風からだと思うのですが、離職率は極めて低く、モノづくりに向き合う資質さえあれば、何か特別な事情でもない限り辞めていく人はいません。

彼ら彼女らのおかげで当社の業務が成り立ち、技術が継承されている…。そのことを日々実感するうちに、いつしか私にとっても「会社の存在意義の第一は、社員の幸せを追求すること」になっていました。これから、国内だけでなく海外事業も展開したり、第三の柱とするべくマイクロレンズ(微細なレンズの集合体)などの3D関連技術を向上させていくなど、様々な形の変化は訪れると思います。しかし、それら全てを支えてくれているのが“社員たち”であることを、決して忘れてはいけないのだと心しています。

創業当時の社屋と作業風景(人物は現会長・荻原正義氏)

社名の由来となった小渋川

photo:Syuji Takeda

企業DATA 株式会社コシブ精密

東京本社 東京都練馬区早宮2-20-11
長野工場 長野県下伊那郡松川町元大島2903-33
代表取締役会長 荻原正義
代表取締役社長 荻原太一
設立 1964年(昭和39年)
事業内容 ロータリーエンコーダスリット板、ガラスフォトマスク(2D/3D)、各種光学スケール/レチクル、レンズ・プリズム・ミラーなどの光学部品の製造等
Webサイト http://www.koshibu.co.jp/
代表取締役社長 荻原太一 Taichi Ogihara

1973年、東京都生まれ。3歳からは、コシブ精密長野工場のある信州伊那谷の雄大な自然の中で育つ。幼少期から創業者であり技術者であった父の“モノづくりに向かう背中”を眺めていたが、帝京大学在学中に長野工場で新規事業の立ち上げに取り組んだ経験から、自身もモノづくりの魅力に惹かれる。大学卒業後、正式にコシブ精密へ入社。入社直後から8年間、光学レンズメーカーに出向して修業を積む。30歳で復帰すると、習得した光学的知識と営業的・開発的視点を駆使して、自社の技術を応用・展開。新たな営業先や事業分野を開拓する。'15年11月、代表取締役に就任。来年には新社屋と工場の建設を予定し、さらなる飛躍を目指している。

[出典]頑張る経営者の応援サイト