注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):有限会社北陸ベンディング | 注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー) | 大同生命
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注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):
有限会社北陸ベンディング

2019.06

眼鏡づくりで醸成した技術をさらなる“ものづくり”の可能性に。

有限会社北陸ベンディング

“めがねのまち・鯖江”で、眼鏡部品を中心に金属加工を行なう北陸ベンディング。
「ベンディング(巻き加工)」と「コイリング(曲げ加工)」を得意とし、難加工材とされるチタンやチタン合金も自在に扱う業界屈指の技術力を誇る技術集団です。現在、自社開発した『さばえルーペ』が多方面から絶賛され、脚光を浴びる萩原勉社長にお話を伺いました。

1.強みは技術力の一言に尽きるかもしれません。

当社は眼鏡フレームの部品製造を柱に、各種金属加工を手がけている会社です。取り扱う素材は純チタンを筆頭に、βチタンなどのチタン合金、銅や洋白(ルビ:ようはく)(銅・ニッケル・亜鉛合金)、ステンレスや真鍮(ルビ:しんちゅう)など様々。強みを一言で表せば、やはり〝技術力〟となるでしょうか。これまでに眼鏡加工で培ってきた技術を結集し、応用し、眼鏡部品以外の金属加工でも数多くのご依頼にお応えしています。

例えば、眼鏡の様々なレンズ形状に合わせてリム線(レンズを保護する金属の線)を巻く加工法をベンディングというのですが、当社は機械で巻けない複雑な形状であっても対応できます。前例がなく、不可能ではないかと思われる加工でも、自社で専用の冶具(ルビ:じぐ)(補助工具)から作製して二次・三次加工を施すことで、異業種のお客さまも含め、実際に様々なご要望を形にしてきています。また、従来の機械では出来なかった、一方向に曲げてからさらに逆方向へ加工する独自の「逆曲げ」の機械を開発し、難しいと考えられていた技術課題を克服しています。ベンディングとともに得意としているコイリング(精密曲げ加工)では、もちろん大きさなどの諸条件はありますが、金型を使わずに丸線材の三次元曲げ加工ができますから、コスト面を気にせず、お客さまの自由な発想を活かすことができます。

これら新しい加工法の開発に取り組む一方で、失われかけている技術の代替策も考えています。一例を挙げると、メタルフレームは現在チタンが主流になっているため、ステンレスや銅合金の素材をロー付け(溶接技術の一種)できる技術者が少なくなってしまった。そこで、レーザーで接着しようと。レーザー溶接は難しく、機械を導入すれば誰でもできるというものではありません。経験値とともに熟練度も要求されますが、かなりの手応えを感じるまでになっています。

眼鏡は工業製品ではありますが、漆器のように分業制が確立され、それぞれの工程を担う職人が競うように技を高め合ってきた歴史があります。切削や鍛造、プレスや表面加工など、スペシャリストと呼ぶに相応しい企業が鯖江には多く存在します。その各社の「強みを集積すれば、もっと面白いことができるはず」「様々な分野のものづくりに貢献できるのではないか」と考え、当社を含めた5社で「チタンクリエーター福井」(※1)という企業グループを結成しました(現在は6社)。そこでは、チタンに特化したプロジェクトを受注しているのですが、やはりこれからの時代、より広い視野で「ものづくり全体を捉えていかなければいけない」と日々痛感しています。その想いは、プロユースに堪える拡大鏡『さばえルーペ』を自社開発し、商品化まで実現したことで一層強くなりました。

萩原社長の着想をもとに開発された『さばえルーペ』。
眉骨で支える独自の構造(特許出願中)によって、長時間使用しても痛くならず、快適に作業できる。

2.自社開発、商品化の先に見えてきたもの。

この『さばえルーペ』を開発したきっかけは、私自身、老眼で細かい作業に支障をきたすようになったからでした。市販の眼鏡型ルーペなどを試してみたのですが、鼻パッドに老眼鏡とルーペの重みが二重にかかって鼻筋が痛くなったり、両サイドのツルが肌に擦れたり。長時間、仕事で使うには「もっといいものがほしい」と率直に感じたのです。ずれ落ちず、重みや痛みを感じず、肌に触れる部分に負担がかからず…。それらの課題を解消する方法を模索し、たどり着いた答えが、鼻ではなく“眉骨”で支え、圧力を一点に集中させない構造。ポケットに入れられる携帯性の実現に苦心し、トータルで約2年かかりましたが、完成したルーペは十二分に満足できるものでした。

結果的に、鯖江市から「鯖江の技術力が集約されている」と全面的な支援をいただき、商品化するに至るのですが(ふるさと納税の返礼品にも採用されています)、私どもはこの経験から、実益以上の非常に多くのものを得ることができたように思います。

ネイリストや歯科技工士の方、以前の私同様、仕事での“見づらさ”に悩んできた様々な業種・職種のエンドユーザーの方々から感謝の声が寄せられたのですが、それは部品製造では得られない喜びでした。「こういうルーペをずっと探していた」と、医療用や工場作業用など、さらなる展開のご相談もいただいています。また、仕事を委託している社会福祉施設に、新しいやり甲斐を提供することもできました。私どもは以前から、縁あって「とまり木福祉協会」(※2)という障がい者の就労支援をしている施設へ眼鏡やアクセサリーの部品製造の仕事を依頼してきました。そこはコンピュータ関係やウェブサイトの制作に明るいので、直販サイトを立ち上げて「販売もしてみないか」と提案できたのです。下請けの工賃より利益になりますし、社会とのつながりをより実感できるかもしれない…。

その施設の代表は、ご自身も精神障がいで二十四年間苦しんだ方です。彼が社会復帰しようと努力する姿を見てきましたし、当社で働くベトナム出身の技能実習生もそうですが、頑張っている人、頑張ろうと必死になっている人を見れば、決してきれいごとではなく、やっぱり応援したくなるじゃないですか。

かつて「萩原が独立するなら、仕事を出してやろう」と、先輩方や仲間たち、多くの方々に助けていただきました。それがなければ今はないはずです。今は自分が応援する番というわけでもないのですが、ものづくりも、どんな仕事も「自社だけ」「自分だけ」ではいけないのだと、歳を重ねるごとに感じるのです。

その感覚は、経営方針にも反映されているかもしれません。仮に当社が価格競争に踏み込めば、眼鏡業界でのシェアを拡大できると思います。けれどそれは、自分たちも含めた業界全体の首を絞めることになります。「他社にできないこと、しないことで勝負しよう」という想いが強くなっています。喜びも幸せも、独占するより分かち合うほうが大きくなる。それが、私がものづくりで学んだ一番大きなことかもしれません。

手作業による熟練の技、レーザー溶接機(写真中)などの最新機器のオペレーション技術、「磨き」工程の自動化を目的に開発したロボット(写真下)。
あらゆる技術を駆使して、実現困難とされる加工を可能にしている。

※1 「チタンクリエーター福井」
https://tic-fukui.jp
※2 「とまり木福祉協会株式会社」
https://www.tomarigihukushi.com

photo:Yukiko Tonami

企業DATA 有限会社北陸ベンディング

本社 福井県鯖江市舟枝町5-13-4
代表取締役 萩原勉
設立 1993年(平成5年)
事業内容 眼鏡リム加工、各種部品加工、精密圧延加工、各種曲げ加工、レーザーマーキング加工 等
Webサイト https://www.h-bending.co.jp
代表取締役 萩原勉 Tsutomu Hagiwara

1962年、福井県生まれ。福井市内の眼鏡メーカーに入社後、約12年にわたって技術者として従事し、部品から最終製品まで、眼鏡づくりにおける全工程のノウハウを習得する。'93年、30歳で独立。ベンディング(巻き加工)の技術者だった実弟(水野勝専務取締役)とともに有限会社北陸ベンディングを設立。実家の農作業小屋に1台のベンディングマシンを設置し、どのような難題、難加工でも確実にこなしていくことで信頼を積み重ね、わずか2年で現所在地に社屋を建てるまでに躍進する。以降、最新の加工技術・設備を積極的に導入し、着実に業務を拡大。100年超の歴史を有する“眼鏡づくりの聖地・鯖江”の中でも一目置かれる技術集団となる。
'17年、自分で使用するために眼鏡型拡大鏡を開発。その後、鯖江市の全面的なバックアップを得て『さばえルーペ』の名称で商品化され、今年1月には「関西ものづくり新撰2019」(近畿経済産業局)に選定されている。

[出典]頑張る経営者の応援サイト