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注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):
フロンティア・ラボ株式会社

2020.01

「失敗も楽しむこと」ができる。それが我々の“強さ”の秘密です。

フロンティア・ラボ株式会社

「パイロライザー(熱分解装置)」など、分析機器に用いる周辺装置や基幹部品を開発し、福島県郡山を拠点に社員48名で“世界を席巻する”企業。それがフロンティア・ラボ株式会社です。その信頼性を世界の名だたる企業や研究機関が評価し、過去にはNASAがスペースシャトルの作業環境モニタリングに採用。分析化学の未来を担う渡辺壱副社長にお話を伺いました。

1.産業、社会、未来への課題を解決するために。

当社は、より信頼性の高い分析システムの開発を目指し、日々研究している企業です。これまでに開発してきた主な製品には、「ガスクロマトグラフ」という分析機器の付属品として「パイロライザー」や「金属キャピラリーカラム」などがありますが、おそらく一般の方々は目にも耳にもされないものだと思います。そこで、どのように用いられるものなのか、その仕組みと目的をできるだけ簡単にご説明します。

まず用途として一番イメージしやすいのは、刑事ドラマにも登場する「鑑識」や「科学捜査班」でしょうか。事件や事故現場で採取した微量な素材(試料)を分析し、それが何で、どこで作られたものなのかを特定するために用いられます。プラスチックや樹脂、ゴム、塗料や染料、木材や繊維などに燃焼時に発生する匂いや煙から実に様々な情報を得ているのです。

この、煙に含まれた物質の化学組成や量、化学構造を解析するシステムの入り口が、片手で持てる大きさの小型加熱炉「パイロライザー」。使い易く、誰が使用しても“同じ結果が出る装置”であることが当社製品の強みです。次に、この煙には、何百種類もの成分が混在していますから、個々の成分を分離させなければいけません。そのための心臓部となるのが「金属キャピラリーカラム」。30メートルもの細長い注射針の内面にシリコーン油を塗ったものです。ここを通ることで、成分を正確に分離することができます。それを測定する機器が「ガスクロマトグラフ」で、これはアジレント・テクノロジー社や島津製作所などの複数社が製造しています。さらに、測定結果に基づいて「それが何なのか」を解析するソフトウエアやデータベースを開発したことも当社の強みで、これがなければ未知のポリマーを解析することは非常に困難です。

ポリマーは、一般的には高分子化合物の総称で、最も身近な存在は買い物袋のポリプロピレン、ポリエチレン、ペットボトルのポリエチレンテレフタレートなど。頭に「ポリ」がつく素材だとお考えいただければ概ね間違いありません。これらの成分の分析は、製造業の現場では品質管理に欠かせないことであり、先端技術分野における新素材の物性評価などにも重要な意味を持ちます。また工業製品以外にも、食品やエネルギー分野など、様々な産業で需要が高まっています。

特に現在、人類の課題として認識しているのはマイクロプラスチック(MP)の問題です。実際に、当社の製品をMPの分析に活用している最先端研究者が世界中におられるのですが、分析の前準備に10日間も要しています。これを2〜3時間に短縮できるような製品の開発を進めており、この世界的な喫緊の課題を解決する助力になればと考え、統合分析システムの開発と製品化に取り組んでいるところです。

主力製品の「マルチショット・パイロライザー」

2.目先の利益ではなく、社会の“公器”として。

私どもは社長のことを「チュウさん」と、愛称で呼びます。私は副社長ですが「イチさん」「イチくん」と呼ばれます。なぜなら評価によって変化してしまう役職ではなく、一個の人間として認め合い、個人名で呼び合おうというチュウさんの意向があるからです。また、当社はチュウさんが四畳半のアパートの一室で始め、そのときから日本ではなく世界を視野に研究開発を続けてきました。その小さな企業が、今では世界中の大学や研究機関から研究者が集まるまでになったのですが、そのような環境下で、国籍や性別、年齢や学歴、ましてや会社内での上下関係などの枠組みにとらわれることの無意味さを、チュウさんは呼び名から教えているのだと思います。例えば当社の所在地は郡山ですが、海外から研修や見学で来られる方々にとっては、東京も郡山も大差ありません。つまり、視野を広げれば広げるほど、枠組みや線引きは関係なくなるのです。

創業時の“四畳半の企業”から“世界一の企業”になることを志し、それを実現した。学術的にも意味のある市場で、そう誇れるまでに成長できた理由は、スタート段階からあらゆる枠にとらわれずに物事を見ていたから。世界規模かつ多分野で活用されるであろう事業分野を見つめてきたからだと思います。数ある分析方法の中で、熱分解という手法に着目したのも、それが「誰もやりたがらなかった」からであり、なおかつ「実現すれば必ず社会の役に立つ」と確信したからでした。決して「儲かるからニッチな市場を探そう」と、目先の利益を追いかける発想ではなかったのです。

当時、なぜ他社が熱分解装置の開発に着手しなかったかというと、市場が小さいと考えられていたことと、分析化学の世界における“3K”の分野だったからです。例えが難しいのですが「タバコのヤニより、きれいな水を分析するほうがいい」という感じでしょうか。競合他社は、分析機器の“本体”には注力しても、補完する“周辺機器”には目を向けておらず、ほかの手法を用いた分析機器より劣ると考えられていたのです。しかし、自らも研究者だったチュウさんは、熱分解による分析手法の可能性も、必要性も痛感していました。ですから起業自体が、ある種の使命感だったのだと思います。その結果として、誰も触りたがらなかった「汚い、きつい、危険」とされる対象物の分析や、未知のポリマーも解析できるシステムは、日本にとどまらず、世界中の産業や社会の課題解決に少なからず寄与できていると思います。

チュウさんは、よく「会社を潰さなければ、失敗することも良し。それを越えた喜びは何事にも代えがたい」と言います。我々の研究は「失敗を繰り返しながら10年続けて、ようやく成果が出る」というようなことばかりです。失敗を恐れず、失敗にくじけず、失敗の過程も楽しめる“強さ”は、多くの場合、本人の資質だけでは生まれません。それを許容し、伸ばしていけるだけの環境を、会社という器が備えているかどうか。その重責を、これからチュウさんに代わって私が担っていかなければいけないのだと思います。

フロンティア・ラボには世界各国から学生や研究者が集まり、各自が分析装置を“独占”して日々の研究を行なっている。
それらの研究成果の学会発表や学術論文が、営業部門を持たない同社の“広告塔”となり、
世界中の企業や研究者から“指名買い”されることにつながっている。

製造部門では各製品の完成時とシステムとして出荷する段階で、一つ一つ正常に稼働するかどうか綿密な検査が行なわれるため、
設置先で初期不良や故障が発生することは非常に稀だという。

photo:Mitsuru Sato

企業DATA フロンティア・ラボ株式会社

本社 福島県郡山市菜根4-16-20
代表取締役 渡辺忠一
取締役副社長 渡辺 壱
設立 1991年(平成3年)
事業内容 分析機器に関する研究・開発および製造・販売等
Webサイト http://www.frontier-lab.com/
代表取締役・工学博士 渡辺忠一 Chuichi Watanabe

1947年、福島県生まれ。福島工業高等専門学校を卒業。株式会社日立製作所、工業技術院(現・国立研究開発法人産業技術総合研究所)、横河ヒューレット・パッカード株式会社(当時)、ダウ・ケミカル日本法人の研究所に勤務し、分析化学の基礎から応用まで多様な研究・開発に携わり、1991年に工学博士号を取得。同年、独立してフロンティア・ラボ株式会社を設立する。以降、分析化学分野における画期的な製品を開発し続け、企業として「ものづくり日本大賞(経済産業省)」など数々の表彰を受けてきたほか、個人として「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン2006」なども受賞。2018年には旭日双光章を受章している。

取締役副社長・工学博士 渡辺 壱 Ichi Watanabe

1982年、福島県生まれ。福島工業高等専門学校を卒業後、カナダへ移住。専科大学で英語を習得したのち、ブリティッシュコロンビア大学へ編入。2009年12月に卒業、帰国し、翌年1月からフロンティア・ラボの研究開発職に就く。その後、マーケティング部(企業戦略部)の部長職を兼任。販売支援、広報、産学連携、技術指導など、様々な役割を担って世界各国を飛び回る。また2019年には、渡辺忠一社長と同じく、働きながら執筆してきた論文や実績が認められ、工学博士号を取得している。なおファーストネームの本来の読みは「あつし」であるが、愛称の「イチ」のほうが外国人にも発音しやすく親しまれているため、通名にしている。

[出典]頑張る経営者の応援サイト