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注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):
株式会社昭和新山熊牧場

2020.02

地域の振興も、自然との共生も、点ではなく面で捉えなければいけません。

株式会社昭和新山熊牧場

北海道胆振(いぶり)地方、有珠山(うすざん)の麓に開かれた昭和新山熊牧場は、洞爺湖(とうやこ)観光ルートにおいて外すことのできない人気スポット。連日、国内はもとより海外からも押し寄せる観光客を、投げ入れた餌を上手にキャッチする熊や生まれて間もない仔熊たちが迎えています。
観光拠点であり動物の飼育施設でもある熊牧場について、岩倉光良社長にお話を伺いました。

1.一過性の流行ではない、地域の魅力を知ってほしい。

当社は約70頭のヒグマを飼育し、来園者の方々に北海道ならではの楽しみを提供している熊牧場です。例えば人気の「人のおり(特別観察室)」では、息づかいまで聞こえる距離で、熊たちの迫力を感じることができます。一方で「餌やり体験」は、通年で販売しているクッキーのほか、秋から春までは地元の壮瞥町(そうべつちょう)産のリンゴを用意しているのですが、リンゴを手にした来園者を見かけると熊のほうから「ちょうだい、ちょうだい」と手招きしたり、投げ入れると上手に口で受け止めたり、熊の愛くるしい一面を見ることができます。またゴールデンウイーク頃には、その年に生まれた仔熊たちがお目見えし、多くの方々の心を癒やしています。

皆さまもニュースなどでご存じかと思いますが、現在、インバウンド(訪日外国人)の観光客の割合は増えており、来園される方の約6割は外国人です。ただ、当園の場合、国が「観光立国推進基本法」を制定(2006年)するなど、インバウンドに力を入れはじめるより早く、海外から非常に多くのお客さまにお越しいただいておりました。30年以上前から、専務(実弟の浩氏)が中心となって世界各地からの観光誘致を図ってきたからです。

当時、特にアジア各国から旅行会社の方などが、日本からの観光客を増やすための営業活動をされていました。そのような方と様々な形で面識を得ると、相手方の国を訪れた際に、手土産を持って挨拶に伺うのです。その頃はまだ、積極的にアジアから観光客を呼び込もうとする自治体や施設は少なかったため、訪問すると大変喜ばれました。できるだけ現場に近い立場の方と親交を深め、きめ細やかな観光ルートを提案することで信頼関係を深めていったのです。

全国の高校から修学旅行の行程に選ばれている理由も同じです。引率される方に「昭和新山熊牧場が提案するルートなら間違いない」と、いかに安心していただけるか。仮に、何もせずにお客さまを待っているだけなら、今のインバウンド需要も一過性のブームに終わってしまうかもしれません。しかし、当社には日本各地、世界各地に長年培ってきた信頼関係があります。それは、人気観光地の流行に関係なく当社が堅調に運営できている理由であり、強みなのだと思います。

とはいえ観光は、私ども一社で成り立つ産業ではありません。地域全体で共存共栄していくものです。当社の所在地でもある昭和新山の魅力、有珠山の雄々しさ、洞爺湖の美しさ、それらを取り巻く施設や飲食店、今年4月に隣接する白老町(しらおいちょう)に開設される一大施設『ウポポイ(国立アイヌ民族博物館などを含む「民族共生象徴空間」)』など、それらの点を線に結び、胆振地方全体を面で捉えなければ、旅行される方に〝本当の楽しさ〟を提供することはできないのです。

2.人から人へ。大切なのは相手を思いやる心のつながり。

私どもの熊牧場は、年中無休で営業しています。それは営業利益を上げるためではなく、熊たちが生きているから。日に三回、熊たちが生活する牧場内を掃除するなど、飼育を休むことはできないからです。しかし過去に二度、休園を余儀なくされた経験があります。1977年と2000年、有珠山の噴火によって被災したのです。そのとき火山灰の積もった園内で、生き物の命を預かることの重大さを改めて考えさせられました。

自然との共生という言葉は美しいですが、動物の場合、愛護の一言では片付けられない問題があります。人里に出没する野生の熊は恐怖でしかなく、害獣として駆除対象になりますが、例えばひとたび傷ついた熊の映像がニュースで流れると「助けてあげて」という声が全国から挙がります。本当の意味で共生していくためには、様々な矛盾に真正面から対峙していかなければいけません。それは先ほど申し上げた観光と同様に、物事を点ではなく面で捉えなければならない問題です。一時の感情論ではなく、共生の在り方を考えるきっかけとなることも、当園の存在意義の一つではないかと思うのです。

また有珠山噴火の経験は、私どもの社風にも影響しています。被災時に先代は、経営陣が無給になってでも社員の生活を守ろうとしました。自分のことより、まず社員という姿勢を徹底していたのです。その一方で社員たちは、自分の担当外の業務であっても、お互いを支え合って仕事に取り組んでくれています。季節ごとに開催するイベントでも、盛り上げようと各人が様々なアイデアを持ち寄り、隣の伊達市の社会福祉法人さんに露店を出店してもらおうなどと、地域貢献の観点からも「自分に何ができるか」を考えてくれています。当社に社訓のようなものはありませんが、相手を思いやる温かさに満ちた社風が醸成されているのではないかと自負しています。

言葉の通じない海外の方にも、満面の笑顔で言う日本語の「ありがとうございます」は通じます。おもてなしの背景に思いやりの心があれば、外国人とも、熊たちとも気持ちは通じ合うのではないでしょうか。逆に、思いやりの心がこもっていなければ、どのような感謝の言葉であってもお客さまを笑顔にすることはできません。だからこそ、この温かい社風を大切にしたいのです。

現在、働き方改革の推進を当社でも進めており、年中無休の体制でも全社員のワークライフバランス(仕事と生活の調和)を高めるにはどうすれば良いか、試行錯誤を繰り返しています。決して余裕があるからではありません。今よりもさらに社員の生活が充実すれば、そこから生まれた心のゆとりはお客さまに、当社に、そして地域にも還元されることになると思うからです。そう考えると、経営も点が線につながり、面へと広がっていくのですね。

近年、様々な地域で起こる災害のニュースを見るたびに、具体的な支援策を講じると同時に、復旧・復興への道のりや風評被害に対する心労を、私どもが体験した過去に重ね合わせて想像します。反対に、2018年の胆振東部地震の際は、有形無形の多くの支援をいただきました。どのような仕事でも同じだと思いますが、観光という産業に携わっていると「人から人へ」ということの大切さを日々痛感します。

オーバーツーリズム(観光公害)という言葉が一般にも使われるようになり、観光産業の形も変わっていくかもしれません。しかし、人から人への思いやりの心を忘れなければ、何があっても大丈夫。そのように思えるのです。


photo:Noriyuki Tanaka

企業DATA 株式会社昭和新山熊牧場

本社 北海道有珠郡壮瞥町字昭和新山183番地
代表取締役社長 岩倉光良
代表取締役専務 岩倉 浩
設立 1969年(昭和44年)
事業内容 動物飼育管理、観覧施設の運営、土産物販売等
Webサイト https://kumakuma.co.jp/
代表取締役社長 岩倉光良 Mitsuyoshi Iwakura

1958年、北海道生まれ。小学生の頃、父が創業した岩倉商店(ガソリンスタンド)に程近い坂道で一頭のヒグマと遭遇。その迫力に圧倒される(この経験をきっかけに先代が熊を飼いはじめ、後に熊牧場を設立する)。'76年、北海道立虻田商業高等学校を卒業。同年、岩倉商店に入社。'90年、ガソリンスタンド業と兼務する形で株式会社昭和新山熊牧場に入社。2003年、代表取締役に就任する。

[出典]頑張る経営者の応援サイト