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注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):
株式会社クラウンベーカリー

2020.05

地域に愛される“町のパン屋さん”。その理想像を常に模索しています。

株式会社クラウンベーカリー

東京の中心を横断するJR中央線沿線の7つのエリアに店舗を展開するクラウンベーカリー。揚げたて・焼きたて・作りたての“三たて”の美味しさが評判の“町のパン屋さん”です。それぞれの町に溶け込み、お子さまからお年寄りまで全ての人々から愛される店づくりを目指し、愛される人づくりに取り組んでおられる鈴木高知社長にお話を伺いました。

1.誰もが“80点満点”をつける愛される店づくりを目指して。

私どもは現在、菓子パンや調理パン、食パン、サンドウィッチなどを揚げたて・焼きたて・作りたてで製造販売するベーカリーを5店舗と、コッペパン専門の2店舗を運営しています。

食に携わる企業として私がこだわるのは、地域の方々から愛される“町のパン屋さん”であることです。お子さまからご年配の方まで、気軽に立ち寄りたくなる店。トレーを手に、味を想像してワクワクしてしまう店内。そして、口にしたときに思わず笑みがこぼれてしまうパン。そのような“日常の小さな幸せ”を提供するにはどうすればよいか、そればかりを考えているベーカリーです。例えば、高級素材を使用してどれほど美味しくなったとしても、その結果、普段の食卓には並べられない価格になってしまってはダメなのです。

当社では毎月、各店の社員が集まって新商品の開発会議を行ないます。大体、全店共通の商品を2つか3つ、それぞれの店舗で独自に販売する季節のイベント商品を3から4つ考えるのですが、毎月それだけの数を開発するのには理由があります。数を絞ってしまうと、経験の浅い社員のアイデアは埋もれてしまうのです。しかし、先輩社員が「これは面白いね」「ここはちょっと」などと手直しをして完成度を高められれば、商品化できるものも少なくありません。原価計算や価格設定、商品のネーミングやPOPの書き方、さらには「このパンは朝より昼食に向いているから、何時から焼きはじめてどういうサイクルで陳列すればいいか」など、売り方まで考えさせるのです。

パン職人に憧れて入社したばかりの頃は、どうしても美味しく作ることばかりに意識が向かって、それ以外のことに目がいきません。遠方からの集客も期待する店づくりであれば、価格よりも味を追求するスタンスでいいのかもしれませんが、我々は違います。メディアで取り上げられるような行列店になったとしても、その行列の中に地元の人がいないような店にはしたくないのです。

全面リニューアルを計画中の三鷹店。

小金井北口店に併設されたカフェ。

私がパンづくりの現場にいた頃、人気のない商品を「なぜ売れないのだろう」と思案していると、ある職人さんから「客のほうが味を分かっていないんだよ」と当然のように言われました。その人が特別だったのではありません。「いいものを作りさえすれば、客は後からついてくる」という考え方のほうが主流の時代だったのです。けれど納得できなかった私は、同業他社の有志とともにコンサルタントの先生を招いたりして、勉強会を繰り返しました。美味しさの基準が“自己満足”になってはいないか。お客さまの求めているものとズレているのではないか。地域の客層にマッチしているのか。すると、そのようなことを検討しながら生み出した商品は、はっきりと売り上げに差が出ました。

仮に食通とされる人が100点だと評価する味でも、食べていただけなければ0点です。しかし80点の味でも、そのお客さまが喜んでくだされば80点が満点なのです。カレーやラーメンが“国民食”といわれるように、菓子パンや調理パンも独自に進化した日本の食文化。ヨーロッパの“本場のパン”を作れる技術は懐刀のように隠しておけばいい。「口にした全ての人が“80点満点”をつけてくれる“町のパン屋さん”を目指そう」。新しいエリアに出店するときも、業態の異なる店舗を作ったときも、その気持ちがブレることはありませんでした。

2.どうすれば作り手の想いをお客さまに伝えられるのか…。

地域の人々から日常的に親しまれる店づくりを継続することは、決して容易ではありません。価格設定の難しさもその一つです。私の学生時代、アルバイトの時給は500円程度でした。それが今の東京では最低賃金が千円を超え、残業の割り増し分や有給休暇もあります。時給が約2倍になった一方で、パン一個の価格を2倍にすることはできません。当社の『とろっとジューシーカレーパン』は、日本カレーパン協会が主催するカレーパングランプリで金賞を連続受賞している商品なのですが、単価は180円。コスト変動をそのまま価格転嫁することも、店側とお客さまの“適正価格”を一致させることも本当に難しいです。

学生たちのアルバイトに対する取り組み方も大きく変わりました。お金を稼ぐためにガツガツと働こうとする子が明らかに減っています。しかし、ベーカリーの経営は学生アルバイトやパート従業員の存在なくして成り立ちませんから、この人材難の時代に、いかにしてシフトを埋められるのか。学生たちのほうから「1日でも1時間でも多く、今より働きたい」と言われるくらい、やりがいを感じさせることができれば、求人や指導のコストを下げられるのですが…。各店舗の社員と一緒に試行錯誤しながら、もがいています(笑)。

社員の採用面接のときにいつも話すのは「パン屋さんって面白いよ」ということです。どの町でも商店街を歩くと、八百屋さんや魚屋さん、お肉屋さんなど、食品を扱う商売にもいろいろあります。その中でパン屋さんは、圧倒的に加工度が高いと思うんです。粉と水とイーストと塩、基本的にこの4つの素材だけで無限に商品を生み出すことができ、自分で名前をつけて、自分で値段を決めて、売り場や接客スタイルにも自分の個性が反映される。社員であれパートやアルバイトであれ、その面白さに気づけば、やる気にさえなればいくらでも創造性を発揮できる仕事なのだと思うのです。

店によって客層がガラッと変わる面白さもあります。同じ東京都内の武蔵野エリアであっても、売れ筋商品はそれぞれの店で異なります。各店長が「この店をどうしていくべきなのか」と、それぞれが考えているのですが、私が巡回しながら「他店でこれが売れている」と持っていっても、その商品はあまり売れないのです。そこには地域差以外の理由もあって、やっぱり自分たちで作ったパンをいい場所に置いて、気合の入ったPOPを作って、日に何回も焼きたてを出してとなるので、私が勧めたパンは、棚の端のほうに置かれるのです(笑)。端に置かれたまま売れ残ったパンを見ると悔しいですけど、でもそこに本質があるのだと思います。作り手の想いがどれだけお客さまに伝わるか、伝わらないかなんですよね。だからこそ美味しさだけでなく、売り方にもこだわらなければいけません。接客するときの表情一つで、味の印象まで変化してしまうのですから。

従業員の笑顔が美味しさをワンランク上げ、それがお客さまの笑顔につながるのだとすれば、経営者の役目は社員もパートさんもアルバイトさんも笑顔になれる環境を作ること。正直、パンづくりより悩んでしまうことも多いのですが、これからも“町のパン屋さん”の理想像を追い求めていこうと思います。

photo:Nobuhiro Miyoshi

企業DATA 株式会社クラウンベーカリー

本社 東京都新宿区四谷4-19
代表取締役 鈴木高知
創業 1931年(昭和6年)
創立 1950年(昭和25年)
事業内容 製菓・製パン、カフェ、不動産賃貸業等
Webサイト http://crown-bakery.co.jp
代表取締役 鈴木高知 Takatomo Suzuki

1967年、東京都生まれ。大学卒業後、接客業におけるホスピタリティを学ぶために大手ホテルチェーンへ入社。ベルボーイからスタートし、バンケットオフィス(宴会部門)に勤務する。29歳で退職し、株式会社クラウンベーカリーへ入社。店舗勤務する傍ら専門学校に通って製菓・製パンの基礎を学び、卒業後は製造部門に従事し、パンづくりの実践的な技術を習得する。その後は責任者として店舗運営に携わり、2002年、35歳で代表取締役に就任する。

[出典]頑張る経営者の応援サイト