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注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):
東信運送株式会社

2020.09

現場力と人間力を成長させる環境づくり。それは、私が経営者として担うべき使命です。

東信運送株式会社

東信運送株式会社は、約1万3千平方メートルの広大な敷地内に本社・配車センター等を構え、長野、神奈川を中心に高品質かつ高付加価値な物流事業を展開。潜在的な顧客ニーズを把握し、柔軟に対応していく“現場力”によって着実な成長を遂げてきました。コロナ禍にある現状を「価値観の転換期」と捉え、企業の在り方を自問される朝場宏男社長にお話を伺いました。

1.目先の利益よりも将来を見据え、信頼という名の荷物を積み上げる。

当社は長野市の本社・配車センターと、神奈川県川崎市の営業所を拠点に物流事業を営む会社です。業務の核となるのはトラックによる配送ですが、保管やピッキング(検品・仕分け・梱包)なども含め、お客さまに最も適した後方支援の形を提案しています。

現在、売上の多くを占めるのは、大手の食品専門商社さまや酒類専門商社さま、飲料メーカーさまなど、総合的な物流システムを採用していただいているお客さまですが、日常的に大小様々な案件が寄せられます。それはなぜかと言いますと、約80名のドライバー一人ひとりが、営業の意識を持って業務にあたっているため、行く先々で困りごとなどの相談を受けるからです。また、私が代表になった30年ほど前から積極的に「ニッチ戦略」を展開してきたことも背景にあります。

当社のようなトラック事業者は、長野県だけでも900社以上あります。加えて軽貨物の運送事業者は県下に2800以上。その中で、競合他社と勝負していくには、お客さまから「言われた通りに運ぶだけ」では不十分です。もちろん「迅速・丁寧・確実にお届けすること」を徹底し、継続していくことは決して容易ではありません。どんなに小さなもらい事故でも、それが信用の失墜につながるおそれがあります。ですから、お客さまのご要望通りに運ぶことを基本に、さらに付加価値を生み出すことはできないかと、常に考えてきました。

例えば、損はせずとも利幅があまり期待できない「ニッチ」の分野は、他社が敬遠しがちです。世の中が好景気のときは尚更でした。しかし私どもは、目先の利益よりも将来を見据え、信頼という名の荷物をコツコツ積み上げてきました。そのおかげで、景気の波が落ち込んだときも着実に依頼は増え続け、商社さまの物流システムの一端を担えるまでになりました。

また、その過程で「おかれた環境によって社員が自ら成長していく」のだと知りました。以前から大蔵省印刷局(現・独立行政法人国立印刷局)の入札指名業者になっているのですが、当然、一挙手一投足にまで厳しい目が向けられる環境下で仕事することになります。すると担当するドライバーは皆、日頃の振る舞いまで立派になり、人間的にも目に見えて成長していったのです。中国古典の荀子(じゅんし)の言葉に「蓬も麻中に生ずれば、扶けずして直し」とあります。地面にへばりつくように生える蓬も、麻の中で育てれば真っ直ぐに生える。つまり、環境が人を成長させることを意味する言葉です。私が経営者としてすべきことは、蓬の生える方向を強引に変えようとすることではなく、麻の中のような環境をつくってあげることなのでしょう。今、まだまだ全員とはいえませんが、多くの社員が「自分が会社を支えていくんだ」という前向きな姿勢でいてくれることを、私は心から誇らしく思います。

2.物流は人々を守るライフライン。その意味と使命を忘れてはいけない。

昨今の新型コロナウイルスの影響は、私どもの業界にも及んでいます。在宅勤務などによる「巣ごもり需要」によって多忙を極めた宅配業者もありますが、全体を見れば大きく減っています。各種メーカーが原材料を仕入れられなかったり、出荷できなかったりしているわけですから当然です。当社でも一部のお客さまの荷物が、現時点ではストップしています。「再開したら頼む」と言っていただいていますが、ただ待っているだけでは社員たちを困らせることになります。

私はまず、これまでの「売上」を基準にした経営方針を「利益」で捉え直しました。売上が減って「利益が出ない」と考えるのではなく、売上が減っても「利益を出すにはどうすればいいか」を追求したのです。例えば1日に20台のトラックが高速道路を利用するとします。そこでいつもより手前のインターで降り、高速料金が千円安くなれば1日2万円分の“利益”が出ることになります。ただ、これは“無駄”を省いているのではありません。ドライバーは法律(改善基準)で乗車できる時間が決められているのです。そこで次に、下道を走ることで超過しかねない時間をどのように回収するのかを考えることになります。このような業務の子細な見直しを至るところで検討することによって、少なくとも4月5月の利益は確保できました。

世間でも口々に言われていることですが、このコロナ禍は社会の価値観や生活様式を変えてしまうでしょう。そうであるならば、私自身も価値観を問い直さなければいけない。そう思い、私は「企業の目的とは」「目指すべきところはどこか」「我々の存在意義とは」と繰り返し自問しました。それぞれの問いに対する答えをまだ明確な言葉にはできていませんが、一つだけはっきりしたことがあります。共存共栄の精神を忘れてはいけないということです。お客さまのために。社員のために。社員の家族、地域社会のために…。多くの企業さまが会社案内などで明文化されている言葉ですが、その意味をとことん考え尽くし、行動し尽くそうと思いました。

今回、新型コロナウイルスによって、多くの医療関係者の方々が命懸けで社会のために働いてくださいました。その結果、経営的にも疲弊しているという話を聞くと、本当に胸が痛みます。他人事に思えないのです。それは私どもが、医療と同じように、物流も人々を守る「ライフライン(命綱)」だと考えているからです。ですから自然災害が発生したときには、水や食糧などの支援物資を届けるために、寝る間もなく走ります。「困っている人のために」「助けを必要としている人のために」という使命感だけで走り続けます。物流の本質は、このような義侠心にあるのではないかと私は思うのです。“義侠”というと荒っぽいイメージを持たれるかもしれませんが、本来、困っている人や弱っている人をなんとか助けようとする正義感を表す言葉。その想いが根底にあるからこそ「迅速・丁寧・確実」に物を運び、それによって送りたい人と受け取りたい人、両者の困りごとを解決したいと尽力するのです。

しかし実際の現場では、机上の計算通りに事は進みません。臨機応変な対応力や判断力が求められます。このような“現場力”を私は重視し、その考えはコロナ禍以降、より強まったように思います。仮に街中で倒れている人を見たとき、お医者さまや看護師さんが「今は勤務時間外だから」と素通りすることはないでしょう。迷わず手を伸ばせるのは、日々現場で不測の事態に対処されているからだと思います。けれど、そこには「人のために」と無心で動ける勇気と優しさ、すなわち“人間力”も必要です。私はこの東信運送という環境を、さらに社員の現場力と人間力を成長させる場にしていきたい。それは、お客さまや地域の繁栄にもつながることだと信じています。

そして今、私は新たな覚悟を決めています。おそらく長期化するであろう「ウィズコロナの時代」をどう生きるのか。今後どのように生活や価値観が変化したとしても、この課題と真摯に向き合っていこうと思います。

photo:Nobuhiro Miyoshi

企業DATA 東信運送株式会社

本社 長野県長野市若穂綿内305-7
代表取締役 朝場宏男
創立 1957年(昭和32年)
事業内容 貨物運送取扱事業、貨物自動車取扱事業、貨物軽自動車運送事業
Webサイト http://www.toshin-unso.net
代表取締役 朝場宏男 Hiroo Asaba

1936年、長野県生まれ。'57年、東信運送株式会社に入社。'71年、専務取締役に就任。'91年より現職。公益社団法人全日本トラック協会、公益社団法人長野トラック協会、北信地区輸送協議会、長野商工会議所などの要職を歴任するほか、2015年には信州大学経営大学院において公開講座を行なうなど、業界や地域社会の未来に寄与するために多角的な活動を続けている。

[出典]頑張る経営者の応援サイト