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注目の企業に学ぶ(経営者インタビュー):
久保田エンジニアリング株式会社

2020.11

ゆっくりと年輪を刻む堅固な木のように。成長の速度より、その質を求めてー。

久保田エンジニアリング株式会社

久保田エンジニアリング株式会社は、石油や石油化学、電力、公害防止、空調、食品など、あらゆる分野における産業用プラントの計装機器販売と、点検・修理・保全を行なう技術者集団です。千葉エリアを基盤としながら、全国各地の工業地帯から要請を受け、ときには海外へも人員を派遣。産業の土台を保守しています。規模より質の成長を目指す久保田浩章社長にお話を伺いました。

1.見積書以上に、仕様書の中身を評価していただける仕事を。

当社は大手計装機器(測定・制御装置)メーカーの日本ドレッサー株式会社さまの代理店として、産業用プラント(機械や装置・工作物など、生産設備の複合体)に装備されるバルブ製品(調節弁)などを販売し、メンテナンスを行なう会社です。

まず簡単に、当社の主力品目であるバルブについて説明します。バルブは一般的に、工場やプラント内を通る配管の要所要所に設置され、液体やガス、蒸気などを通過させたり遮断したり、流体をコントロールするものです。1つのプラントの中に何本も配管がありますから、配管ごとにそれぞれバルブが付き、開閉させることで流量や圧力、温度を調整するのです。

巨大なプラントの場合、千、二千のバルブを付けることになりますが、販売するのは汎用品ではありません。プラントの大きさや設置場所の状態はどうか、流体は何で、それをどのようにコントロールするのか。様々な運転条件を勘案して1台1台仕様を決め、日本ドレッサーさまに製作していただきます。

当社のお客さまは、京葉工業地域に拠点を持つエネルギー関連の企業を中心に、長年のお付き合いをさせていただいているところがほとんどですので、阿吽の呼吸で通じる部分が多いのですが、それでも注文を受けてから納入するまで長ければ1年、短いものでも3ヵ月はかかるプロジェクトになります。

例えば、流体の性質に応じてバルブ内部の材質を変えなければいけないのですが、選定を誤ると劣化を早めたり、腐食を招いたりしてしまいます。すると当然、プラントどころかコンビナート全体の防災にまで関わる大問題になります。先代(現会長)は口癖のように「これくらいでいいだろうという仕事をするな。これなら絶対に大丈夫だと断言できる仕事をしなさい」と言っていました。「どれほど長い時間をかけて築いてきた信頼も、一瞬のミスで全て失ってしまうぞ」と。その言葉は、決して大袈裟ではないと思います。

ただ一方で、そのような緊張感のある仕事を確実にこなしてきたという、その実績こそが私どもの強みになっているのだと思います。

創業時、当社のベースにあったのは営業力や販売力ではなく、計装保全の技術力でした。計装機器をメンテナンスできる技術者は、当時も今も全国的に数少なく、腕を見込まれた先代が周囲からの声に背中を押されるようにして起業したのです。そのため当初から整備や工事の依頼も多く、技術的な裏付けのある販売代理店として認知していただけたのです。

現在、売り上げだけを見れば営業部門(販売)が6割強を占め、工事部門(メンテナンス)の数字を上回ります。しかし人員配置は工事部門に重点を置き、営業も全員、現場を経験した人間が行ないます。見積書の金額以上に、仕様書の中身を評価していただけなければ、仕事はつながらない。私どもは常に、そのように考えてきたのです。

2.拡大ありきで、技術やサービスの質を落とすことはしない。

計装機器のメンテナンスは3種類あります。4年(または2年)に一度、プラント全体を止めて行なう定期整備工事。計画的に一部分だけを順次止めて行なう日常メンテナンス工事。そして、突発的な異常や故障に対処する緊急工事があるのですが、どの場面でも、メンテナンスに要する時間はお客さまの生産ラインを止めることを意味しますから、正確かつ迅速な判断が求められます。

各種プラントに組み込まれるバルブ(調節弁)は、材質もサイズも全て運転条件に応じて1台1台異なる仕様で製作される。
写真は直径14インチ(約355ミリ)の大型バルブ。

例えば、稼働している状態での修理は、バルブに触れず、基本的に目と耳だけで異常の原因を見つけなければいけません(状況によっては非破壊検査の専門業者に依頼してレントゲン撮影することもある)。内部に問題があるのか、弁を制御する駆動部なのか、信号を送る部品が悪いのか、そもそもバルブ以外の装置に原因があるのではないか…。もしもバルブに異常があると判断して、ラインを止めてから「バルブは問題ありませんでした」となったら、場合によっては莫大な金額の補償問題にもなりかねません。今のところ人材に恵まれ、そのようなことは一切起こっていないのですが、油断と慢心は絶対にあってはならないのです。

これまでの私どもの歩みは、周囲の方々の目には非常に遅いものに映っているかもしれません。先代が3人で立ち上げ、2年目から私が参加し、約30年経った今、社員数は15名。メンテナンス技術者の需要は高く、国内の各工業地域はもとより海外の工場からの依頼もあります。人を増やし、もっと広範に積極的な営業をかけていたなら、企業規模を大きくすることもできただろうと思います。しかし、私どもは意図的に成長のスピードを落としてきました。拡大ありきで、技術やサービスの質を落としたくなかったからです。むやみに増員し、受注量を増やすと、必然的に技術が未熟な人間が触る部分が多くなります。しかもそこに、先輩社員の目が届きにくくなったりします。当社の仕事の性質上、それは許されません。ですから地道に“ゆっくり”でいいのです。

現在、専務が工事部門をまとめてくれているのですが、彼は先代に似て、根っからの職人気質で仕事に対して一切の妥協がありません。帰宅途中の車の中でも、その日の反省点や改善点に気づけば、停車してメモを取るような人間です。また、一番の熟練スタッフは50代後半ですが20代の社員に負けないくらい若々しく、社員の定着率がほぼ100%であることからも、彼らに任せておけば技術面での世代の空洞化などの心配はありません。

今、専務と検討しているのは、修理の際の特殊な補修や加工、溶接などの作業を内製化して、一貫体制を強化できないかという、仕事の“質”の部分の拡大です。以前、旋盤を導入し、治具(加工を補助する作業工具)を自作するようになって、修理の品質もスピードも向上させることができたので、そのような「自分たちで責任を持つ部分」を増やしていけないだろうかと考えているのです。ただ、それで本来のメンテナンス業務に支障がでてしまっては本末転倒です。

経営者としての私の役目は、焦って、すべきことの優先順位を間違えないようにすること。3年前、京浜エリアからの依頼にも迅速な対応が取れるように、東京湾アクアラインに近い現在地に営業所を移転したのですが、売り上げや業務の拡大を急いでいるわけではありません。もちろん着実な成長を遂げるための努力は惜しみませんが、それも“ゆっくり”でいいと思います。

じっくり時間をかけて育った樹木は、年輪が細かくギュッと詰まり、堅く、強くなる。人の成長も組織の成長も、それに近いものがあるのではないでしょうか。

計装とは:日本産業規格(旧称:日本工業規格)は「対象とするシステムの運転や管理を具現するために、対象システムの計測・制御又は管理方法などを検討して、制御や監視のための装置を装備すること」と定義している。

photo:Nobuhiro Miyoshi

企業DATA 久保田エンジニアリング株式会社

所在地 千葉県袖ケ浦市長浦580-122-1(袖ケ浦営業所)
取締役会長 久保田 隆
代表取締役 久保田浩章
専務取締役 久保田恭朗
創業 1991年(平成3年)
事業内容 工事機械計器の販売・保守・試運転業、機械器具設置工事およびそのコンサルタント業等
Webサイト http://www.kubota-eng.jp/
取締役会長 久保田 隆 Takashi Kubota

1944年、千葉県生まれ。工業高校を卒業後、大手計装機器メーカー等に勤務。'91年に独立し、久保田エンジニアリング株式会社を設立。ニイガタ・メーソンネーラン株式会社(現日本ドレッサー株式会社)と代理店契約し、計装機器の販売およびメンテナンス業務を開始する。2016年に代表を退き、現職に就任する。

代表取締役 久保田浩章 Hiroaki Kubota

1971年、千葉県生まれ。工業高校を卒業後、大手計測制御機器メーカー等に勤務。'92年、久保田エンジニアリング株式会社に入社し、技術者として現場に従事する。その後、営業部門を担当し、経営に参画。常務取締役を経て2016年、代表取締役に就任する。

専務取締役 久保田恭朗 Yasuo Kubota

1975年、千葉県生まれ。美容専門学校を卒業。一度は美容師となるが、生来の職人気質から「人より技術と向き合いたい」と'97年に久保田エンジニアリング株式会社へ入社。技術・業務改善に取り組み、工事部門を統括。2019年、専務取締役に就任する。

[出典]頑張る経営者の応援サイト