フカボリインタビュー
SVリーグ 大河チェアマン インタビュー
後編「意識改革から未来をつなぐ─SVリーグがもたらす世界基準」

SVSP-2024-105
後編となる今回は、SVリーグを率いるチェアマン・大河正明氏が再び登場。
SVリーグが掲げる「世界最高峰のリーグ」というビジョンを実現するためには何が必要なのか。その鍵を握る「意識改革」について、具体的なエピソードや改革に対する熱い想いをうかがいました。

赤のユニフォーム:サントリーサンバーズ大阪
紺のユニフォーム:東京グレートベアーズ
意識改革なくして成功なし。発想を切り替え、未来像をイメージしよう
――SVリーグは「世界最高峰のリーグ」を目標にしていますが、世界最高峰とは具体的にはどのような状態を指すのでしょうか。
「世界最高峰」と聞くと少し抽象的に感じるかもしれませんが、SVリーグにおける具体的な目標ははっきりしています。それは、クラブワールドカップ、つまり世界クラブ選手権で優勝することです。この大会はクラブチームの世界一を決める場で、2023年の大会ではサントリー(サンバーズ大阪)が日本チームとして初めて3位に入るという素晴らしい結果を出しましたが、目指すのは優勝なわけです。
もう一つの基準は、リーグに所属する選手たちです。日本を含む各国の代表選手や元代表選手がどれだけ多く集まるか。その数が多いリーグこそ、間違いなく「世界最高峰」だと思います。要は、選手の質や層の厚さが、リーグ全体のレベルを決める大きな要素なのです。
ただ、それを実現するには競技力だけではなくて、事業力やガバナンス力も必要です。お客さまがたくさん観戦に来てくださって、事業規模が大きなリーグでなければ、優秀な選手やコーチを呼ぶための投資も難しいですからね。競技力の向上を最終的な出口とするなら、その手前では事業力を高めていく必要がある。そして、事業力を高めるためには、リーグやクラブ全体のガバナンス力、つまり経営の基盤をしっかりと整えることが大前提なのです。
逆に言えば、ガバナンス力を整え、事業力をアップさせて、その結果として競技力を高めていく。この順番が重要だと思っています。この三本柱が揃って初めて「世界最高峰」のリーグが実現できると考えています。

左:ジェイテクトSTINGS愛知 トリー・デファルコ選手
右:大阪ブルテオン ロラン・ティリ ヘッドコーチ
――ガバンナンス力や事業力から「世界最高峰」を目指すとなると、大きなイノベーションも必要になりそうですね。
そうですね、まずは「意識改革」からですね。「これまでこうやってきたから今年もこうする」という考えを捨てて、新しい発想に切り替えることが第一歩だと思います。SVリーグはもともと実業団スポーツからスタートしていますが、今は地域密着型のプロスポーツとして成長していく途中です。その中で、クラブやリーグ全体のビジネスモデルを大きく変えていく必要があります。
例えば、実業団スポーツは、いわば「コストセンター」なんですよね。年間の部費が決められていて、その範囲内で選手を集めたり、遠征や合宿をしたりしてきました。でも、これからは「プロフィットセンター」に変わる必要があります。親会社からの支援はもちろんありがたいですが、自分たちで収益を上げて、そのお金を選手の強化や地域貢献に投資していく。そんな発想の転換が求められます。だからやはり大きな会社の中の「ひとつの事業」ではなく、独立した法人化をめざすというのが重要なのです。
ただ、意識改革は簡単なことではないですよね。一度言えば変わるというものでもないですし、法人化することも簡単な話ではない。だからこそ何度も何度も、根気強く働きかける必要があります。私自身がSNSを通じて発信を続けたり、各クラブを訪問して直接話をしたりもします。また、先日もサッカーJリーグ川崎フロンターレを日本一の地域密着型クラブに育て上げた武田信平さんを招いて、SVリーグの責任者向けに講演会を開催しました。実業団から地域密着型へと移行するプロセスを、実例を交えて話してもらうことで、各クラブが自分たちの未来像をイメージしやすくなると思っています。
それだけではなく、実際に成功したアリーナを見に行くことも重要です。例えば、Bリーグ千葉ジェッツふなばしの最新鋭のアリーナを訪れて、「これが日本トップの環境か」と実感することで、自分たちの目標がより具体的になるのですよね。そして、世界の舞台を目指すなら、「これだけじゃ足りない」と気づくことも大事です。その気づきが意識改革の第一歩なわけですから。
意識改革なくして成功はない。しかし、意識改革さえできれば、SVリーグの未来は可能性に満ちていると確信もしています。
若い世代の積極的な国際交流、そして日常を「世界基準」に
――世界最高峰にもつながると思いますが、SVリーグがグローバル市場で成功するために必要な条件も、すでに頭の中にはあるのでしょうか。
やはり世の中、どんどんグローバル化が進んでいますから。バレーボールに限らず、若い世代から国際的な経験を積むことが本当に大事だと思います。例えば、中学生くらいの年代から海外のチームと試合をする機会や、異国の文化に触れる機会を持てるようにすることが必要だと感じています。
実際にSVリーグでは、ユース世代、つまりU15のチームを各クラブに立ち上げてもらうことになりました。この取り組みが1年目、2年目と進んでいけば、ユースの選抜チームを作って海外遠征をする、逆に海外のチームを日本に招いて交流試合をするようにもなると思います。現地に行くことで、異文化に触れる経験もできますし、若いうちからそういった国際交流を積極的に進めていくことが大事だと思います。
もう一つ重要なのが、SVリーグ自体の「日常を世界基準にする」ことです。現在、SVリーグには多くの海外の一流指導者が参加してくれています。また、外国籍選手のコートに立てる人数をこれまでの1人から2人に増やしたことで、さらにレベルの高い選手がリーグに加わっています。このように、日常的に世界のトップレベルの選手や指導者と接する環境を整えることが、国内選手の成長にもつながります。
要するに、オリンピックや国際大会の代表合宿のときだけ「どうやって海外のチームと戦おうか」と考えるのではなく、普段のリーグ戦からその基準で試合をしていけるようにすることが大事だと思います。日常が世界基準になれば、自然と競技力も向上していきますよね。「日本のリーグは世界レベルなんだ」と意識が変われば、その意識にそったレベルでみんなモノを考えるようにもなるでしょう。
若い世代の国際交流とトップリーグの国際化、この二つがSVリーグがグローバル市場で成功するための大きな柱になると思います。こうした取組みを通じて、SVリーグを「世界最高峰」のリーグに押し上げていきたいですね。
安心してプレーできる環境がSVリーグの強み

大同生命SV.LEAGUE OPENING MATCHの様子
――「日常を世界水準にする」というのはワクワクする未来ですね!そのためにはSVリーグがもつ「独自性や強み」をいかにアピールするかも大切ですが、その点はいかがお考えでしょうか?
SVリーグが持っている独自性は、いくつもあると思いますが、一番わかりやすいのは安心感と安定感だと思います。例えば、日本ではクラブが潰れたり、給料の未払いが続いたりすることはほとんどないです。これは、世界では結構頻繁に起きることで、特にヨーロッパやアジアのいくつかの国では深刻な問題です。それがない、というのがまず日本の大きな強みですよね。
日本特有の「おもてなし」の文化そのものもSVリーグの強みです。外国籍の選手や指導者たちがよく言うのは、「日本のリーグに来ると、本当に親切にしてもらえるし、大切にされている感じがする」ということです。給料もきっちり支払われますし、安心してプレーできる環境が整っています。これがあるから、世界中から良い選手や指導者が集まりやすくなるのです。
そして、SVリーグならではのもう一つの特徴が、男女両方のリーグを運営していることです。男女それぞれの競技の魅力を同時に発信できることは、他のリーグにはなかなかない大きなアドバンテージですよね。この形式をいかして、観客により多様な楽しみを提供していけるのがSVリーグの強みだと思っています。
また、女子については、男子と比べるとまだ企業チームの色が濃く残っている現状がありますが、リーグとしてはこの課題を克服し、女子バレーボールという可能性のあるコンテンツを事業面でも勝負できるようにしていくために、女子プロジェクトを立ち上げようとしているところです。このプロジェクトでは、集客やスポンサー営業、地域密着の活動などを実地で支援できる特別チームを作り、特に苦しい状況にある女子クラブを徹底的にサポートしていく予定です。こういった取組みが、ひいてはバレー全体の発展につながり、世界から見ても輝くリーグへつながって行くと信じています。
SVリーグの人材育成への向き合い方
――バレーだけでなく、今後スポーツ業界全体が成長していくための課題は何だと考えますか?
少しずれるかもしれませんが、各チームは基本的に選手の強化や育成にはすごく力を入れています。預かった選手を鍛えて、どんどん成長させていく。ただ、スタッフや経営陣の育成になると、そこまで体系的に取り組めていないことが多いです。さらに言うと、新卒を採用する余裕すらないというクラブも少なくないので、結局人材の循環が起きない。これが大きな課題だと思っています。
この人材不足も「そういうものだ」と思ってしまっている風潮があって、その考え方や意識も改善していかないと、成長は見込めないと思います。もしかしたら、リーグ全体で人材を一括採用して、共通の教育プログラムを作るという発想も必要になってくるのかもしれません。
言うなれば「人材を循環させる仕組み」です。例えば、新卒をリーグが一括で採用して、まずは一定期間リーグ内で研修を受けてもらう。その後、各クラブに派遣して現場で経験を積ませる。そして数年後には、クラブで育成された人材がまたリーグに戻ってきて、次世代を担うリーダーとして活躍する。人によってはそのままクラブに移籍して、クラブの中心を担う存在になっていく。こうした循環型の仕組みがあれば、業界全体が持続可能な形で成長していけると思います。
もちろん、行政やパートナー企業の協力も欠かせません。教育プログラムに対する助成金や資金提供を通じて、スポーツ産業全体の基盤を強化することが重要です。これらの取組みを通じて、スポーツ業界全体が「人材を育成する」という文化を醸成し、長期的な成長を支える仕組みを構築していくというのが、今後のスポーツ界にとって重要なポイントになってくると考えています。こういった未来へのアクションも考えながら、スポーツ業界に生きる私たちは頑張っていかないといけないですね。
――ありがとうございました。最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。
このたび、ご縁をいただいて大同生命さんとパートナーシップ契約を結ばせていただくことができました。
私たちはスポーツの力で全国を明るく元気にしていきたい。そして、リーグ自体も成長させていきたいと思っています。
現在、SVリーグは30都道府県(チーム所在地およびホームタウン、サブホームタウンの合計)ほどで活動していますが、これからもっと広がっていくと思います。そして、その広がる先々には大同生命さんの支社があって、そこにはお客さまがいらっしゃる。そういう皆さまと一緒にバレーボールというスポーツの力を使って、地域を元気にしていきたいし、地域の課題解決にも役立てていきたいと思っています。
もちろん、私たちからもどんどん提案していきますし、大同生命さんからも「この地域でこんなことをバレーボール選手やスタッフと一緒にできないか」といったご意見やアイデアをいただければ嬉しいです。たとえば、「この地域で子どもたちと触れ合うイベントをやりたい」とか、「地元企業と連携した企画を作りたい」とか、そういった具体的な取組みを一緒に考えていければと思います。
大同生命さんと共同活動をすることで、バレーボールがつながりの中心にあって、「こんなこともできるんだ」と地域の方々がハッピーになれる、そのような仕組みを作りたいです。それが最終的にはスポーツを通じた地域の活性化につながると思っています。
末長く良いご縁をいただきながら、共に成長していけたらと思っていますので、ぜひ今後もSVリーグを応援よろしくお願いいたします。

大河 正明氏
1958年生まれ。金融業界などを経てJリーグ常務理事、Bリーグ初代チェアマンを歴任。
2024年7月、SVリーグ代表理事に就任。