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フカボリインタビュー

生活の中にバレーボールを。夫婦で築く新たな強さ──青柳京古選手、林謙人コーチ夫妻

東レアローズ滋賀に所属する青柳京古選手と林謙人コーチ。
林コーチは大学生、青柳選手はVリーガーという境遇で二人は出会い、8年間におよぶ別拠点生活を乗り越えて結婚。
バレーボールという共通のフィールドで育まれた絆は、夫婦としての信頼関係だけでなく、チームメイトとしての理想的な距離感にもつながっている。
異例の「夫婦入団」を経て、同じチームで日々を共にする今、二人が感じている“夫婦だからこその強み”とは――。

いろいろな壁があったからこそ、思いやりが当たり前になった。

――まずはお二人の出会いのきっかけを教えてください。

青柳選手出会いは12年前、私が選手1年目の頃です。所属していたチームに、彼がスタッフとして参加していたことがきっかけでした。

林コーチ当時の僕はまだ大学院生でしたが、コーチになるためにさまざまなチームの練習に参加していました。(日本体育大学9人制男女の監督・ヴィクトリーナ姫路・ビーチバレー国体東京都代表など)そこで「もっと上のレベルで学びたい」と周囲に話していたところ、彼女の所属チームが受け入れてくれて、そこで出会いました。付き合うきっかけはベタですが、音楽の話で盛り上がったことです。

――そこから林コーチもトップチームの舞台にあがっていくわけですが、生活拠点が全然違いますよね?

林コーチ彼女の所属チームでの活動も終えて、大学院修了後に僕は改めてトップリーグに挑戦することになりました。その際に所属させてもらったチームの拠点は愛知。彼女は変わらず埼玉のチームに所属していたので、いわゆる「遠距離恋愛」でした。

それよりも恋人が同じトップリーグの別のチームにいることを、チーム側から嫌がられるかもしれないということが心配の一つでした。当時のチームの監督に「恋人が別のチームにいるんです」と正直に相談したところ「全然大丈夫」と言ってもらえて、すごく安心したことを覚えています。両チームの監督が「それよりも、選手やコーチとしての結果にこだわろう」というスタンスだったので本当に救われました。
結果的に6年間、別々の拠点で生活し、そのあと僕は海外挑戦もしたので、トップリーグの世界に入ってからは、合計8年間の別拠点生活になりました。

青柳選手最初から離れている状態で付き合い始めたので、なかなか会えなくて寂しいという感覚は、私もあまりありませんでした。彼も海外挑戦の時はシーズン中に日本に一切帰ってこなかったですし(笑)遠距離が当たり前という感覚です。私が気になっていたのは、距離よりも会話の内容に制約があることでした。別のチームに所属していると、チームの状況を軽々しく話すわけにもいかず、お互いの報告はするけれど、チームのことは話さないという、絶妙な会話の距離感がありましたね。お互いの会話の中に、目に見えない気づかいがたくさんありました。

林コーチそれは確かにありました。今日何かあったのかな?と思っても、こちらから聞いてはいけない話だと、質問するだけで困らせてしまうし、場合によっては情報漏洩にもなりかねないので、あえて聞かないことがかなり多かったです。それゆえに、彼女が怪我をしたことをチームからのニュースリリースで初めて知ったこともありました(笑)普通に考えたらいろいろと壁が多い状況ですが、「必要ならば自分から話してくれるだろう」と、彼女を信じて待つことができるようになり、それが思いやりとなり、今でもいい距離感を保てている秘訣だと思います。

それぞれに届いたオファー。入団は「夫婦」ではなく、それぞれで決めた。

――そして昨シーズン、東レアローズ滋賀に夫婦で入団されました。オファーがあった時は驚きましたか?

林コーチ最初は僕の方に声がかかって、先に入団が決まっていました。監督から「青柳選手も迎えたいんだけど、大丈夫かな?」と相談していただいたという流れです。今まで別々のチームで活動していても、しっかり情報のコントロールはできていましたし、同じチームになったからと言って、彼女とうまく関われないとは想像できなかったので、僕は「問題ありません。嬉しいお話をありがとうございます」とお答えしました。

青柳選手そんな状況も知らずに、私はかなり長い期間どうしようか悩んでいました。当時の所属チームも本当に大好きでしたし、でも新しい環境で成長したいという想いもありました。さらに、これから先の人生を考えると、出産も視野に入れたかったですし、出産後も選手を続けたいと考えていたので、各チームにいろいろ相談しながら、時間をかけてしっかりと考えさせていただきました。

林コーチその時も彼女が悩んでいるのはわかっていましたが、立場上、僕からプッシュするのはおかしいと思っていたので、彼女の決断を見守ることに徹していましたね。

青柳選手彼は本当にただ話を聞いてくれるだけで、私が「どう思う?」と聞くと「俺がいるかどうかは関係ないから、自分で決めていいよ」と言ってくれました。それでなんとなく肩の力が抜けて、素直に「行きたい」と思えるチームはどこかを考えるようになりました。お誘いいただいたチームそれぞれにとても魅力があって本当に悩みましたが、最終的に東レアローズ滋賀にお世話になろうと決めました。

――何が入団を決める最後の決定打になったんでしょうか。

青柳選手決め手は「監督」です。2023-24シーズンまで、監督は髪も乱れていて、疲れているように見えました。ご本人に聞いてみると「美容室に行く暇もない」とおっしゃっていて、それはつまり「生活を投げ打ってまでバレーボールに向き合っている」ということだと私はとらえました。確かにプロの世界は甘くはないので、全てをバレーボールに捧げる覚悟も必要ですが、これから出産を経ても選手を続けたいと考えていた私にとっては、「生活も充実した上でプロとして戦える環境」こそが大切でした。だから監督に「スーツを着て、かっこいい姿で試合に挑んで欲しい」とお願いしたんです。

スーツを着るなら髪型もキマってないといけない、シワだらけのスーツでは格好もつかない。「かっこいい監督」としてコートに立ってもらうためにも、生活の質から見直すチームになってほしいと思いました。そんなわがままな私のお願いに、監督は「わかった」と気持ちよく応じてくださったので、同じ未来を描いていけるチームだと感じて、入団を決めました。
VリーグからSVリーグになって、女性選手のキャリアに対する業界全体のとらえ方が変わってきたと感じています。東レアローズ滋賀だけでなく、お誘いいただいていた他のチームも、私の人生設計を肯定的に受け止めてくださいました。

林コーチ「監督がスーツ着てくれるらしいから入団する!」と彼女から連絡があった時は「どういうこと!?」とさすがに驚きましたが、結局は僕も事後報告として入団を知ったので、本当に夫婦として決めたわけではなく「たまたま夫婦で入団することになった」というのが実情ですね。

同じチームになってみて、思いもよらない相乗効果も感じられた。

――夫婦として同じチームに所属し、やりにくさはありませんか?

林コーチ僕はほとんど感じていません。コートに入ればコーチと選手、それ以上でもそれ以下でもないので、練習中にやりにくさを感じることはありません。むしろコーチ状態のモードを家にまで持ち込んでしまって、「今その話はやめて」と思われている方があるかもしれないですね。

青柳選手私は割とオンオフを切り分けるタイプなので、最初は少しやりにくさがあったかもしれません。でも一緒に生活するようになって「この人のリズムはこうなんだな」と理解できたので、今ではむしろずっとバレーボールの話ができることが嬉しいです。彼は失敗にフォーカスするのではなく、常に「次はどうするべきか」という未来への視点で話をしてくれるので、それも嫌にならないポイントだと感じます。家でもずっとバレーボールの話をしていると聞くと、しんどそうと思われるかもしれませんが「生活の中にバレーボールがずっとある」というのは私たちにとっては、本当にありがたい環境だと思います。

林コーチそういう意味ではむしろやりにくさよりも「いい効果を生んでいる」と感じることの方が多いかもしれません。僕らの家は少し大きめの一軒家なんですが、「チームのみんなが集まれる場所」を練習場以外にも作りたいと考えて決めました。普通であればコーチの家に選手が来るのは、少し難しいことですが、僕ら「夫婦の家」なら制約を受けにくいので、選手もコーチもしょっちゅう遊びに来てくれます。そこでもバレーボールの話ができるので、コミュニケーションは深まりますし、練習の質もあがります。これは夫婦入団した僕らだからこそ作れた良い環境なのかなと思います。

青柳選手「夫婦入団」がチームに良い効果をもたらしているだけでなく、夫婦にも良い効果を生み出していると思うことがあります。お互いの距離感をわかっていても、やはり人間ですから、ちょっとしたことで意思疎通がうまくいかず、空気が悪くなる時もあります。そういう時に何も知らないチームメイトが家に遊びにやってくると、ムスッとしたまま過ごすわけにいかないので、いつも通りの笑顔で対応します。そうしているうちにイライラしていた感情もおさまって、普段通りの気持ちに戻っていることもあります。「チームのために私たちの家を使おうね」と話して作った環境なのに「チームのおかげで私たちが救われた」ことが、この家では何度もあるんです。「夫婦だからチームに良い影響がある」だけじゃなく「チームだから夫婦に良い影響がある」というのが、私にとってはとても嬉しいことです。

お互いの夢を実現するために、これからも走り続けたい。

――最後にこれからのお二人の未来像を教えてください。

林コーチ目標は世界で戦うことです。リーグ優勝はもちろんのこと、アジアクラブ選手権、世界クラブ選手権で東レの選手たちが活躍する未来を創りたい。「東レアローズ滋賀は世界と戦える」と胸を張って言えるようなチームにしていきたい。その時を夫婦としても一緒に迎えることができたら、これほど幸せなことはありません。

青柳選手2024-25シーズンは肩を怪我してしまって、自分の持ち味を出せませんでした。でも、私が大切にしてきたプレースタイルは「世界標準」だと信じています。このスタイルで、チームメイトと一緒に東レアローズ滋賀をしっかりと上のレベルに押し上げていきたい。そして日本のバレーボールのレベルも押し上げていくことが、私がバレーボール界にできる貢献だと思うので、2025-26シーズンは最後まで全力を出し切れるように頑張りたいです。一人なら遠く感じる道のりも、夫婦でなら、東レアローズ滋賀でなら、きっとたどり着ける。そう信じて、ワクワクしながら挑戦していきたいと思います。

本記事は2025年6月に実施したインタビューに基づくものです。

東レアローズ滋賀 青柳京古選手

東レアローズ滋賀 青柳京古選手

2023-24シーズンにVリーグ栄誉賞とベスト6を受賞。
高く速いプレーで2023年には日本代表メンバーにも選出。

東レアローズ滋賀 林謙人コーチ

東レアローズ滋賀 林謙人コーチ

日本体育大学大学院でコーチング学の修士号を取得。
2024年、女子U17世界選手権にてコーチを務め、銀メダル獲得に貢献。
同年6月より東レアローズ滋賀のコーチを務める。

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