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フカボリインタビュー

“自分から変わる”ことで道は開ける――東京グレートベアーズ 深津旭弘、「今」を貫く戦い方

2024年に当時37歳でパリ五輪出場を果たしたベテラン選手がいる。
東京グレートベアーズの深津旭弘選手は、様々な紆余曲折を味わってきた。
時に後悔し、時に自分に失望し、それでもキャリアを積み上げてきた彼の人生観とはどんなものなのか。
常に歩みを止めないベテランから、ブレない心のあり方を学びます。

全てに苛立っていた。退団という絶望が思考を変えた。

――2025-26シーズンがプロ16年目。ベテランになったと感じるシチュエーションはありますか?

若い年代の選手たちが入団してくるので、年齢的なものは感じますが、それほど強くベテランだとは意識していません。それでも、あえて挙げるなら、相手や自分に対して「イライラしなくなったこと」だと感じています。

若い頃は、周りに対して「どうして上手くできないんだ」「なぜこれだけしかやらないんだ」という怒りを感じることもありましたし、時にはその苛立ちの矛先を自分に向けることもありました。ですが今は、自分にも相手にも客観的に向き合えるようになったと思っています。僕自身が丸くなったというより、物事を見る角度が変わり、より深い部分まで覗き込めるようになった感覚に近いと考えています。

――イライラすることで、自分自身や周りの人にどのような影響がありましたか?

JTサンダーズ(現・広島サンダーズ)を退団したことが、最も大きく影響した出来事だと思っています。退団するまでは、本当にことあるごとに周りに当たり散らしていたので、かなり迷惑な立ち振る舞いをしていたと思います。

当時はその怒りを、自分なりの正義から来る感情だと思っていましたし、勝ちたいという気持ちの表現でもあると考えていました。だからこそ、その感情を表に出すことで、周囲の人を傷つけてしまうことに無自覚なまま、感情的になっては物事を悪い方向に進めてしまっていました。振り返ると、自分がチームの雰囲気を悪くしてしまったと思う場面も少なくありません。

そうして最終的にチームを去ることになり、いざバレーボールができるか分からないという立場に置かれたときに、物事の見方を変えるだけでなく、自分自身がどのように振る舞っていく必要があるかを自問するようになりました。

――生き残るための「思考の再構築」を自らに課したということですね。

退団という出来事で、ただバレーボールをやっているだけでは生き残れないという事実に直面しました。思考も価値観も、すべてを再構築する以外に道はなかったと考えています。

練習をやり込んでも、試合になるとうまくいかない。その原因は技術の問題ではなく、すぐに他人に矢印を向けてしまう自分自身の「思考の癖」にあったんです。かつての僕は、挨拶をしない人間がいれば「なぜ挨拶しないんだ」と相手に苛立ちをぶつけていました。しかし、コート外でのそうした不寛容さが、結果的にコート内での信頼関係を損なってしまうということに気づきました。だから他人に求めるのではなく「自分から挨拶すればいいだけだ」と考え方を変えました。

自分が相手にとって「挨拶するのも嫌な先輩」になっている可能性を自省し、他責にする癖をなくす。そうして視点を変えていくことで、仲間との関係性が構築され、プレーにも生きてくるのだと今は確信しています。

この精神的な成長は、のちに東京グレートベアーズに移籍する際にも役立ちました。バレーボールのプレースタイルはチームによって異なりますが、まず大事にするべきは人間関係ということに気づき、チームワークの本質を見つめることができました。その点を理解できていたからこそ、スムーズにチームへ馴染めたのだと感じています。

感情論も、執着も捨てる。エネルギーは常に「次の仕事」へ

――試合後のインタビューなどでも、深津選手はチームメイトの手柄を口にすることが多いですよね。

それほど意識はしていませんが、自分が感じたことをそのまま表現するようにしています。例えばチームメイトからもらったアドバイス通りにプレーして結果が出たならば、その事実を嘘偽りなく表現する。それはスポーツに限らず、どんな業界であっても不可欠なことだと考えています。ダメならばダメだと言わなければいけないですし、頑張った人がいるなら「よく頑張った」とその事実を評価する必要がある。そこにプライドや感情は必要ないと思っています。

「プライドを捨てて周りを持ち上げる」といった仰々しい話ではありません。客観的に周りを見ながら、努力している人や手を差し伸べてくれた人たちへ「ありがとう」という感謝の気持ちでいるだけだと感じています。

――とはいえ、キャリアを重ねる中で、自身の過去の栄光と比べたくなることはないのですか。

すべての物事は今を過ぎたら過去のものになります。だからこそ、過去の栄光やキャリアに固執することを僕は好みません。いい仕事をしたのであれば、また次のいい仕事をすることにフォーカスする。キャリアを一つ積み上げたら、その瞬間にまた次のキャリアが始まるわけですから、振り返っている暇などないと思っています。

一つの挑戦が始まれば、その都度、違う悩みや別の大変さが目の前に現れるだけです。「過去はよかったが、現在はダメだ」と後ろ向きになることもありません。良いことも悪いことも、すべてはもう終わったこと。次の仕事に向かって意欲を持ったほうがエネルギー効率がいいと考えています。

衰えを言い訳にしない。今の自分を使い倒す「いいからやれ!」

――過去に固執せず、今にフォーカスする。そのスタンスを貫く上で、若手の台頭や自身の肉体の変化をどのように捉えていますか?

若手の活躍によって出場機会を奪われる悔しさは、当然あります。しかし、彼らが上手くなればなるほど、僕自身の成長を後押ししてくれると本気で考えています。負けたくないというエゴ以上に、彼らが上手くなることが自分への最大の刺激になると思っています。

若い頃と今とでは、肉体の状態は全く違います。だからこそ「今の自分はこうなのだから、この自分で勝負するだけだ」と完全に割り切っています。人間ですから悩む瞬間はありますし、自分に失望することもありますが、嘆いたところで10年前の自分に戻れるわけではありません。今、自分に備わっている肉体と思考で勝負する。それ以外に道はないと考えています。

――とはいえ、年齢とともに「体力的な制約」は増えてくるはずです。そこに対して、恐怖や焦りはないのですか?

恐怖や焦りは特にありません。

体力というものはフィジカル的な要素だと思いますが、それは衰えを構成する要素の一つに過ぎないと考えています。思考や技術といった自分の中にある引き出しを活用することで「体力的な衰え」だけなら十分にカバーできる。その余地があれば、体力の衰えをプレーができない言い訳にしてはならないと強く思っています。

ただ、どれだけ引き出しがあっても、結局のところ「やるか、やらないか」でしかありません。コンディションのせいにしたり、あれこれ理屈をこねて足を止めてしまったりするのが人の常です。だから、弱気になりそうな自分に向けて「いいからやれ!」と投げかけるようにしています。

僕にも文句を言いたくなる時や、逃げたくなる時はありますが、言い訳を探して停滞するくらいなら「いいからやれ!」とすぐ動く。その一言が、思考の霧をすべて断ち切り、自分を次へと進めてくれるのだと実感しています。

不確実な目標よりも、純粋な衝動で今を燃やす

――「いいからやれ!」という言葉には、迷いを断ち切る力強さを感じますね。

少なくとも僕自身には一番効く言葉です。バレーボール選手に限らず、僕たちの世代は、若い頃のような勢いだけでは通用せず、悩みが増えてくる時期だと思います。人間関係や大きなプロジェクトなど、困難に直面する場面も多いでしょう。そんな時こそ自分に「いいからやれ!」と言い聞かせてほしい。とどのつまり、「やるか、やらないか」それだけなんです。

その割り切りや、覚悟ができない人は、我慢というある種の逃げに走ってしまうように思います。勇気がない自分を「耐えているんだ」という言葉で正当化してはいけない。僕自身、パリ五輪後は肉体的にも精神的にも厳しい時期がありました。その時に何度も「よく耐えている」と自分を評価しようとしましたが、そうやっていても何も解決しませんでした。だからこそ、同年代の皆さんも、まずは鏡の前に立ち「いいからやれ!」と自分を鼓舞し、行動へ移してほしいと考えています。

――最後に、深津選手が描いている今後のキャリアについてお聞かせください。

もともと先のことを細かく考えるタイプではありませんが、最近は特に不確実な未来を追うことを好まなくなりました。ですので、明確な目標も掲げていません。それはやる気がないという意味ではなく、目標そのもののパワーに不確実さを感じるからです。

深津旭弘が五輪に出場するなんて、僕自身を含め誰も予想していなかった。不確実な未来のことばかり考えていたら、目の前のことを疎かにしてしまい、あの場所には立てなかったはずです。

未来という不確実なものに縛られず、今できる確実なことを精一杯積み重ねていく。その先にこそ、想像もしない成果が待っているのだと信じています。僕のような30代後半でキャリアの節目に差しかかる世代だからこそ、「今」を必死に生きてもいいのだと、僕は強く思っています。

本記事は2026年4月に実施したインタビューに基づくものです。

東京グレートベアーズ 深津 旭弘選手

東京グレートベアーズ 深津 旭弘選手

セッターとして東京グレートベアーズを牽引する。
豊富な経験を活かした冷静な判断力と安定感あるプレーで、コート上の司令塔として存在感を放つ。

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